2020年1月15日水曜日

憶えておくべきこと

その人は、ごみ拾いをしながら散歩するのを毎朝の日課にしている。

その日もいつも通りに雑木林の遊歩道を歩いていると、向こうに誰かいるのが見えたのだという。



歩道から少し入ったところで、男性が立ち樹を背に座り込んでいた。

「二十歳くらいかな。若いんだ。若者だよ」と、その人は言った。

男性の横にロープが落ちていた。

「大丈夫か?」

「はい」

「立てるか?」

「はい」

その人は男性を立ち上がらせると、服のよごれを払ってやった。

「歩けるか?」

「はい」

その人は男性と一緒に歩いて雑木林を出ると、林の出口のところで彼と別れたのだと言った。そして、そこまで私に話すと、

「なんなんだろうねえ・・・俺には分かんないよ」

と言ったきり黙って、窓の方を向いて立て続けに煙草の煙を吐き出した。

「元気でいるといいけどなあ」



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