「最近、県北方面での仕事がよく来るんだけど、この前この近くの集落に行ったんだよ。そこがなんだか凄い秘境っぽいところでさ。建物がみんな古くて。で、さらに奥があるみたいだったんだけど、ちょっと行ってみていい?」
昼食を食べるところを探して走っている最中だったが、まだそれほど腹の減っていなかった私は友人の思い付きに応計した。
車は国道を右に折れ、ある集落へ入った。途端に大時代な古民家の群れが目に飛び込んできた。太い柱に、現代では見られない曲がった木をアーチ状に用いた梁。風格ある建物が現役で残る一方で住む人が居なくなり朽ちて崩れかけた建物もそこかしこにある。驚く私を尻目に、ここの奥が見てみたいんだと友人は山奥へ車を走らせた。
山道をしばらく走ると、路肩に標識が立っていた。読んで絶句した。
「Yだ・・・」
それは県内でも秘境中の秘境、“Y”という集落だった。先達伝てに聞いてはいたけれど、まさかここでその名前に出くわすとは思わなかった。
「秘境“っぽい”じゃなくて正真正銘の秘境じゃないか・・・」
標識を撮って車に戻ると、じゃあ行ってみようと言って友人は走り出した。
うねうねとした山道を10kmあまり登って、雪避けのトンネルを幾つか抜けて、Yへ着いた。
水田と畑、山側の斜面のあちこちに民家が建っている。
そのまま飲めそうなほど澄んだ水の流れる川に赤い太鼓橋が架かっていた。橋を渡って石造りの鳥居をくぐり、古い急な石段を登ると神社があった。老朽化が進んでかなり傷んではいるものの、社殿も境内もきれいに掃除され、石段は時代を経て歪んだり傾いだりしてはいたが、各段の泥や土が掻き出されている。一見して大切にされ保たれていることの分かる社だった。
神社から村の入り口の丁字路へ戻ると、集落とその周辺の略地図を手書きした看板を見つけた。「Yへようこそ」陽に晒されて色褪せた字がうっすら残っている。
看板の隅には「古戦場跡」「十二人塚」とあった。かなり気になったものの、略地図には所在地までは描かれていない。なんの準備も無い部外の素人が、この秘境からさらに山奥へ向かって分け入るのはあまり良い思いつきではないし、ちょっと観に行ってみようかと物見遊山で行く性質の所ではないかなという雰囲気が字面から漂ってくるように思えたので、私と友人はそこで引き返す事にした。
帰り際にある家の前を通ると、縁側で機織りをしていた。
二人とも昼食は食べ損なった。夕方近くなって国道へ戻るとコンビニへ駆け込み、パンを買って茶で流し込んだ。




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